奥浅草 蕎亭 大黒屋

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浅草へはよく行くにも関わらず、ずっと未訪だったお店に念願かないお邪魔してきました。

今回は、前日に営業の確認の上、昼の開店時間12:00に予約をしました。


開店10分前にお店の前に着くと先客はどなたもおらず正真正銘の1番乗りです。

緑が多く粋な外観は、雷門のうなぎ屋『色川』や『初小川』に通じるものがあります。『色川』といえば、昨年亡くなったオヤジさんはチャキチャキの江戸っ子で美味い鰻を作ることが最優先。普段は軽妙洒脱なトークをしながら鰻を焼きているのですが、無粋とあらば客でさえも怒鳴り飛ばすような方でしたっけ。私は先入観を持たないために訪問前はあまり他の方の投稿などは読まないのですが、こちらはワクワクが強すぎて少々読んでしまいました。すると絶賛の声とともに長時間待つとか女将さんを怒鳴る声が聞こえるとかネガティブな声もちらほら。

15071506.jpg妻と待ちながら「こちらのご主人も色川のオヤジさんのような方なのかもね?」とおしゃべりをしていると開店の5分ほど前に玄関の引き戸が開き、女将さんが店内へ案内してくれました。玄関を入ると左側には腰掛と素焼きの灰皿、右手はトイレがあり、もうひとつ引き戸を開けて店内です。店内右側の小上がり席は、足を伸ばしてゆっくりと寛げる掘りごたつのような座卓が3つ。座卓の間は洒落た衝立で仕切られています。
左手には2人掛けのテーブル席が2つ。空いたスペースには、粋な調度品と壁には味のある毛筆で書かれた書が架かっています。

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女将さんが、温かいおしぼりとお品書きを書いた扇子を持ってきてくださいます。

「おそばは、せいろ、そばとろ、せいろ天もりの3つしか出来ないんです。昔はいろいろ作っていたんです。お父さんのやる気はあるんですよ。でも、お父さんも70を過ぎておそばのように細く長くいきましょうね。私が言うんですよ。ごめんなさいね。」ととても上品におっしゃいます。
「わかりますよ、女将さん。自分も職人のような仕事をしてますから。50を過ぎて、経験を積むことで技術は上がってやる気はあっても根気が続かないなぁって感じることがありますから。女将さんは旦那さんを愛していて、良い仕事をしてほしいと願っているのですね。」と心の中でつぶやきます。

蕎麦前にビールとそばやきみそ、粗挽きそばがき。おそばはそばとろとせいろ天もりをお願いしました。

15071507.jpg壁に架かっている書を見まわしていると、以前作っていたであろうお品書きに交じって一茶庵の創始者である片倉康雄さんの友蕎子の号が入った書があります。女将さんにお尋ねすると「ここに飾ってある書は、みんな大旦那さんに書いていただいたんですよ。大旦那さんには、以前の柳通りの店もこの店の造作も考えてくださったんです。」とおっしゃいます。

なるほど!こちらのご主人は片倉康雄さんの元で修業された方だったのですね。

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まず、そばやきみそとビールを女将さんが運んできてくれました。中の蕎麦の実が香ばしくて、とても美味しいそばやきみそだと思います。
後で聞いたのですが、箸置きなどはご主人自ら竹に細工を施し、作ったそうです。

続いて陶製の鍋に入った粗挽きそばがきです。滑らかでモチモチした食感は、私の好みです!味も山葵や調味料もいらないほど私の好みです。ただ、残念だったのはパクパク食べてしまったために、この日の朝、ご主人が大豆を煎って手作りしたというきな粉がいただけなかったことです。まあ、きな粉は次回のお楽しみということで(笑)

15071512.jpg女将さんが、熱々のそば茶を持ってきてくれました。
「おそば、お待たせして申し訳ありません。もう少しで出来上がりますからね。」と後から来たお客さんが先におそばを食べていることを気にしているようでした。
あら、気づきませんでしたよ。しっかり、そばやきみそと粗挽きそばがきを堪能していたものですから(笑)
それよりこのそば茶は美味いです!お蕎麦屋さんで食後に出されるそば茶はおうすが多いですが、このそば茶はお濃茶です。蕎麦の味もしっかりします。

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天ぷらとそばとろのつゆです。
天ぷらは、正にサクサクでカラッと揚がっています。しかも時間が経ってもしんなりせずにサクサクしています。並の天ぷら職人では敵わないのでは?と思うほどです。

そばとろのつゆはメレンゲのようです。やはり時間が経ってもフワフワで分離しないのはすごいの一言です。

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15071516.jpg真打のおそばの登場です。
そばとろには、ネギと山葵の薬味がついてきました。

せいろ天もりのおそばの薬味は、ネギと辛味大根です。

見た目にも美しいザ・生粉打ち蕎麦です!
新蕎麦がある程度熟成した時期でお店の照明が食材を鮮やかに照らすものだったら?さぞや美しいでしょう!

まず、何もつけずにおそばだけをいただきます。

生粉打ち蕎麦なのになんと滑らかな喉越しなのでしょう!水切りの具合も丁度良いのでつゆも薬味もつけずにほとんど食べてしまいました(汗)

15071517.jpgつゆは強いかえしを使っているわけではないのに出汁を上手く包み込んでいます。これならば、山葵は必要ありません。つゆにつけるときの絡みを良くするために大根おろしだけなのは納得です。

こちらの蕎麦湯は、白濁しておらず透明に近いさらっとしたタイプです。しかし、つゆに割ると滋味深い味に変わる魔法の蕎麦湯です(笑)

蕎麦を食べるときに使わなかった山葵をちょっと舐めるととても滑らかで甘みの後からピリッと辛味がきます。良い山葵を丁寧におろしていることがわかります。

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後からいらしたお客さんも帰ってしまい、私たちだけになってしまったのでご主人も厨房から出てきてくれました。中にいらしたときとは打って変わって柔和なお顔です。
ご主身を聞くとお父様は吉原で履物屋さんをしていたそうです。やはり、下町の職人さんの系譜なのですね。
私たちが行った蕎麦打ち教室の主催者とご主人は懇意にしていて話が弾みました。その方を通じて岐阜・下呂の名店『中佐』のご主人にも刺激を受けたとおっしゃっていました。

有難いことに片倉康雄さんがご元気な頃の貴重な写真も見せていただきました。ご主人や八王子の『車家』ご主人が片倉さんに指導を受けている写真のそばにこちらの女将さんが蕎麦を打っている写真もありました。想像通り若い頃の女将さんはとてもお綺麗な方でした。
「女将さんの言葉からはご主人を愛してる様子がとても伝わりましたが、実はご主人の方が惚れてますね。」と言うと「よせやい。」と頬を赤らめる少年のような顔。「図星ですね?!」一同、爆笑です。

表面は下町の頑固職人でその実、女将さんの手のひらの上で師匠を敬愛し、蕎麦道を自由に歩む少年のようなご主人を垣間見ました。

お腹も心も満たされ、2時間近くの間、本当に楽しいひとときでした。有難うございました。


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